プロジェクトの要約
プロジェクトの要約:一般社団法人mixjamの辻さんは、福岡県直方市で、子育てをシェアしながら地域で親と子どもがつながるコミュニティスペース「こどもの居場所いろり」を運営しています。核家族化や孤立感が進む中、地域の多様な価値観を持つ人々が集まり、親の心の余裕を支援することで、子どもが健やかに育つ土壌を作ることを目指しています。
プロジェクトURL:困ったらほんとうに頼れて安心して話せる「子育てシェアリング」のネットワークをひろげたい!
クラファンを通じた、人とのつながり
成田:クラウドファンディング終了後、辻さんはどのように活動を進められたのですか。
辻さん:クラウドファンディングで皆さんからご支援いただき、念願だった子ども食堂の環境整備ができました。特に、エアコンを設置できたことは大きな成果です。古民家を利用しているため、夏場の暑さ対策が急務でしたが、エアコンを設置できたおかげで、子どもたちが少し安心して過ごせる環境が整いました。また、活動に必要な備品も充実させ、拠点での遊びや食事提供がよりスムーズにできるようになったことは、日々の活動の大きな支えになっています。
実は、私がこの活動を始めたきっかけは、自身の子ども時代に感じた窮屈さや孤独があったからなんです。周囲に頼れる環境がなく、閉塞感を抱えていました。そんな思いを他の子どもたちにはしてほしくないと考え、居場所づくりを進めています。この活動がメディアにも取り上げられ、さまざまな方から「私たちも協力したい」というお声をいただくことが増えました。
成田:クラウドファンディングを通じて、資金調達のほかに、反響もあったんですね。
辻さん:そうですね。実際にこのクラウドファンディングをきっかけに居場所を利用していたママたちが、「自分も子どもたちやほかの保護者の方々のためにできることがあれば」とボランティアとしてチャリティーイベントを企画実行してくれたことや新しい仲間が増えたことも大きな成果です。クラウドファンディングは単に資金を集めるだけでなく、人と人をつなげる大切なきっかけを与えてくれるものだと感じています。
支援から広がるアメーバのようなつながり
成田:人とのつながりの変化について詳しく教えていただけますか。
辻さん:この1年で関係人口が確実に増えたことを実感しています。「いろり」という場所を通じて、多くの方々が関わってくださるようになり、徐々に繋がりが広がっています。私が理想とするコミュニティは、ガチガチに固定されたものではなく、アメーバのように柔軟で自由な形です。やりたい時にやりたいだけ関わってもらえる、そんな場所を目指しています。
成田:その自由な関わり方が、「いろり」の特徴でもあるんですね。
辻さん:はい。クラウドファンディングを通じて活動がメディアに取り上げられたことで、より多くの方々に知ってもらう機会が増えました。「こんなことをしているんだ」と興味を持ってもらい、実際に新聞やローカルテレビの取材も受けました。活動自体もブラッシュアップし、メディアに出ることで地域からの信頼も高まりましたし、企業や行政との連携も進んでいます。人との繋がりが少しずつ広がることで、次のステップに向けての基盤が整ってきていると感じます。
成田:繋がりが広がったことによって、ハードルに感じることはありますか。
辻さん:次の段階に進むにはまだ課題があると思っています。それは、「やりたい人がやりたい時にやりたいだけ関わる」、そしてそれが相互扶助になっていく、それをマネジメントできるコーディネーターがまだまだ足りていないことです。
人の繋がりのハブになる人材を育成し、関わる人の希望や関わり方に応じて、柔軟なアプローチを模索することが急務です。気軽に参加したいママ層、一緒に活動をつくっていきたい人、そして事業として深く関わりたい人など、段階に合わせたサポートや関わり方が必要だと考えています。
コミュニティを保つカギ:コーディネート人材とは?
成田:「いろり」のように、コミュニティが「うまく回る」ために本質的に必要な要素は何だと考えていますか。
辻さん:この1年で、コミュニティがうまく回るためには「コーディネートする人」がとても重要だと実感しました。「ここに行けばこの人がいる」という安心感があるだけで、みんなが繋がりやすくなります。そこで今年から、人と人をつなげたり、場を創る「コーディネート役」を育てることに力を入れています。この役割は、子どもたちの遊び場を提供するだけでなく、保護者含め来訪する多様な人たちの話を聞くことも大切です。こうしたつなぎ役を育成することが、これからの成長の鍵になると感じています。
成田:現在、「コーディネートする人材」をどのように、育てているのですか。
辻さん:今は何名かの方が育成プログラムに参加しています。今の時代、居場所を「自分で作りたい人」と「誰かが作った場で活動したい人」がいますよね。そこで、今年の2月からそれぞれに合ったモニター講座を始めました。この講座では、モデレーションスキルを学びつつ、参加者が自分らしさを活かしてコミュニティを築けるようサポートしています。これによって、さらに多くの人の心が繋がる場を広げていけたらと思っています。
子どもへの支援の循環のひろがり
成田:コミュニティ「いろり」としての将来的な展望についてお聞かせください。
辻さん:今、来年度の計画を立てているところで、私たちは引き続き子どもたちが安心して過ごせる居場所を提供していきたいと考えています。それと同時に、子どもたちが継続して思いっきり遊び学べるフリースクールや地域と連携した体験プログラムの実施、訪問支援やプレーパークなどのアウトリーチにも体制を整えていく予定です。
成田:訪問支援を始めるということですね。素敵ですね!
辻さん:お家からあまり出たくないと感じているお子さんやご家族が「いろり」に来ること自体躊躇されることもあるので、まずは顔見知りが増えるようなアウトリーチをしていきたいと考えています。例えば、プレーパークなどで遊んだことのある「おばちゃん」がいれば「その人が居るならこども食堂に行ってみようかな」と思ってもらえるかもしれません。
成田:行政とも連携して進められるのですか。
辻さん:はい。今年度から少しずつ、市のスクールソーシャルワーカーや保護援護課・子育て支援課など行政の担当部署の方たちとも連携をとらせていただけるようになり、支援が必要な家庭に少しずつ届けられる体制ができてきました。私たちのコミュニティが地域のセーフティネットとなり、より多くの子どもたちが安心できる居場所であれるよう努力していきたいと思っています。
すべての子どもたちに安心できる居場所を提供することを目指して
成田:最後に、辻さんにとって理想とする社会についてお聞かせください。
辻さん:私の理想は、すべての子どもたちに安心できる居場所があることです。どんな家庭環境や健康状態、障害があっても、自分らしく生きられる社会を目指しています。「全員が元子ども」という視点を持つことが大切であると思います。子どもたちが家庭環境や病気、障害に関わらず、自分の人生を自分らしく生きられる環境があることが大切だと思っています。「あのときの経験があったから今の自分がある」と思えるような土壌があれば、子どもたちは安心して成長できるのではないでしょうか。
もちろん、人生にはさまざまな苦労もあると思いますが、それでも自分の「好き」を見つけ、未来に向かって自己を信じられる環境が広がってほしいと願っています。子どもたちが安心して「自分は大切にされている」と感じられる居場所を提供し、やがて彼らが大人になったときに同じように次の世代を支えてくれるような「相互扶助の循環」が生まれる社会こそ、私が目指す未来の姿です。
編集後記:今回は、こどもの居場所「いろり」を運営されている辻さんにお話を伺いました。「いろり」は、多くの子供たちにとって安心できる居場所となり、未来への希望を届けていると感じます。活動がメディアで取り上げられたことで地域住民からの信頼も一層深まり、訪問支援体制の整備など、活動の幅も広がり続けているとのことです。これまでに築いた地域とのつながりと信頼が、今後も地域社会の安心に寄与し、子供たちが健やかに成長できる環境の構築に繋がっていくことでしょう。辻さん、貴重なお話をありがとうございました。