プロジェクトの要約:[en.to](えんと)プロジェクトは、長野県塩尻市で昭和初期に建てられた元ギフトショップ「ハリカ」を再生し、コミュニティスペース、ゲストハウス、シェアハウスの3つの機能を備えた滞在型交流拠点を目指す取り組みです。地域住民や移住者が協力し、お金や時間、スキルを分け合いながら、地域課題の解決と次世代の人材育成を目指します。
プロジェクトURL:新しい公共が創る”資本主義では説明できない社会。関わりたいメンバー大募集!
衰退から再生へ:[en.to]から始まる、地方創生のカタチ
成田: クラウドファンディングが終了してから1年ほど経ちましたが、その後のen.toプロジェクトはどのように進んでいるのでしょうか。
西出さん: クラウドファンディング終了後に本格的に工事が始まり、昨年の11月にシェアハウスがプレオープン、今年の5月には正式オープンを迎えました。クラウドファンディングでは、en.toを地域とつながる場所にするための資金を集めましたが、それだけでなく、プロジェクト自体に多くの人を巻き込むための手段としても活用しました。この場所は、かつて呉服屋であり、商店街の中心的存在だった建物ですが、後に衰退の象徴とも言われていました。その再生を目指し、ゲストハウス、シェアハウス、コミュニティスペースの3つの機能を持つ場に生まれ変わらせようとしたのです。古い建物の改修は思っていた以上に難易度が高く、なかなか工事が進まなかったり、改修費が当初見込みよりも大幅に膨らんでいったりと多くの困難に直面しました。計画を変更したり、一部をあきらめたりしながらも、なんとか少しずつ形にしていくことができてきたというところです。
3つの機能で地域とつながるー塩尻で広がる「社会にコミットしたい」思い
成田: そもそも、なぜ、長野県塩尻市という場所で、ゲストハウス、シェアハウス、コミュニティスペースの3つの機能を持つ場所を作ろうと考えたのですか。
西出さん: まず塩尻という場所を選んだのは、関係人口の多い町だからです。塩尻は東京からもアクセスが良く、新宿から電車で2時間半で来られるので、ふらっと訪れて地域の活動に参加しやすいんです。また、塩尻には、「スナバ」があり、シビックイノベーション(市民、企業、非営利団体、政府機関が協力し、地域社会の課題に創造的に取り組むプロセス)を促進しているなど、地域プレイヤーたちがボトムアップで新しいプロジェクトを立ち上げる文化が根付いていて、地域全体が活気に満ちています。しかし、その一方で地域と深く関わりが持てる宿泊施設や、中長期滞在のための住まいが不足しているという課題がありました。
成田: ゲストハウスやシェアハウス、そしてコミュニティスペースという3つの機能があることで、どのように地域と関わることができるのでしょうか。
西出さん: それぞれの機能が、異なる形で地域との接点を提供します。ゲストハウスでは、例えば地域のイベントに参加したり、地元の人と一緒にご飯を食べたりする機会を設けています。シェアハウスでは、中長期の滞在者が地域のプロジェクトに参加することができ、さらに深い関わりを持つことができます。そしてコミュニティスペースは、地元の人々が集まり、何かを試す場やイベントの開催場所として活用することができます。en.toを通じて、人々が「社会にコミットしたい」と思う気持ちを育み、自然と地域に溶け込めるようにしたいと考えています。
成田: 塩尻での生活や活動の中で、「社会にコミットしたい」という思いがどのように育まれていると感じていますか。
西出さん: 塩尻は、カリスマ的なリーダーが一人で引っ張るのではなく、多くの人がそれぞれに役割を持って動く街です。そのため、関わる人たちが自発的に行動し、新しいつながりが生まれることが多いんです。たとえば、シェアごはん会のように、地域の人々が一品持ち寄って交流するイベントを通じて、普段は関わることのなかった人々が打ち解けたり、次の活動につながるアイデアが生まれたりします。[en.to]はこうした自然な交流を生み出す拠点として機能しています。
成田: クラウドファンディングを活用したのも、そういった思いが背景にあったんですね。クラウドファンディングを選んだ理由をもう少し詳しく教えていただけますか。
西出さん: クラウドファンディングは資金調達の手段であるだけでなく、地域全体を巻き込んで一緒にプロジェクトを作り上げるためのツールとしても非常に有効でした。塩尻にはさまざまなコミュニティがあり、それぞれが独立して活動しています。そのため、誰か一人が主導するのではなく、みんなが関わりを持ちながら作り上げるプロジェクトにすることが重要でした。クラウドファンディングによって、地域外からの支援者も巻き込み、「社会にコミットしたい」という共通の意識を持つ人々が集まる場を作ることができたのは大きな成果だと感じています。
[en.to]が地域のハブに進化した瞬間
成田: 改修に関しては、地域の方々との協力が重要な役割を果たしたんですね。実際にen.toをオープンしてみて、計画段階では気づかなかったことや新たに分かったことはありましたか?
西出さん:実際にオープンしてみて、[en.to]は単なる宿泊施設を超えて、地域とのつながりを深めるコミュニティのハブの一つになりつつあると感じました。たとえば、塩尻市の図書館が改修中の際には、[en.to]のコミュニティスペースがワークショップの会場として使われました。これがきっかけで、訪れる人々が増え、地域の活動拠点としての役割が強まりました。また、月に一度の「シェアごはん会」では、塩尻に遊びに来ている人や地元に住んでいる人が一品持ち寄りで集まり、それぞれの料理を楽しむ中で、新しいつながりが広がっています。最初は訪問者として参加した人が、その後[en.to]の常連になったり、さらには塩尻への移住を考えるきっかけになったという話もあり、外から来る方が地域に入るエントランス的な場所として機能し始めていると感じます。
成田:地域とのつながりが深まる中で、印象的なエピソードはありますか。
西出さん:[en.to]の建つ大門三番町は、古くからの祭りや公民館での催しなどが盛んな地域です。「シェアごはん会」などで『祭りへの参加者が減っている』『神輿の担ぎ手が足りない』という地域の方の声を聞き、今年はプロジェクトメンバーも“玄蕃(げんば)祭り”という盆踊りイベントや地元の神輿に参加させてもらいました。三番町の方から、「[en.to]ができて地域に活気が生まれた」と言っていただけたのは、とても嬉しい出来事でした。一緒に神輿を担いだりお酒を飲んだりしているうちに地域の方との関係性もできてきて、今度は[en.to]を訪れる人をまちの行事に連れて行って紹介したりと、人と地域の橋渡しをする機会も増えました。[en.to]を通じて新しい関係が生まれることが実感できて、プロジェクトを進める原動力になっています。
「自分も一部」という意識が支えるプロジェクトの成長
成田: まさに[en.to]が人と人をつなぐ場所になっているのですね。もしよければ他にもエピソードを聞かせていただきたいです。
西出さん: そうですね。例えばDIYイベントに参加して「この床は自分が張った」という思い出が生まれた支援者が、その後も[en.to]に訪れて新たなイベントを手伝ってくれるようになったりしています。こうした実際の経験が、プロジェクトへの愛着やコミットメントを深める要因になっています。また、クラウドファンディングを通じてつながった関係がきっかけで、新しいプロジェクトや地域イベントが生まれるなど、良い循環が生まれています。
成田: プロジェクトを進める中での課題もあったかと思いますが、それらはどうやって乗り越えましたか。
西出さん:改修の難易度や費用の増大に伴い、当初予定していた別棟でのゲストハウス、コミュニティスペースの建設はあきらめ、規模を縮小してシェアハウス内に実装することに計画変更しました。規模を縮小しながらもどうやって当初の理想を実現するか、プロジェクトメンバーで何度も議論を重ね、地域の事業者や住民の方々、行政関係者や出資者の方々とも繰り返し対話を重ねました。最初は計画変更に対して批判的な意見もありましたが、対話を進めるなかで、「それぞれの挑戦したいことややりたいことを持ち寄って助け合い、支え合って地域をつくりたい」というプロジェクトの意義を理解してもらえ、「自分もプロジェクトの一部だ」という意識をもってもらえたことで応援してもらえるようになりました。
また、その過程で、「やりたいことがあればできる限りサポートしたい」と言ってくださる地元住民の方など、新たに支援してくださる方もでてきました。今は改めて[en.to]が地域に寄与できるポイントを探しながら、次なるフェーズに向けて進み始めたところです。
誰かの人生のターニングポイントに。[en.to]の挑戦。
成田: 様々な人を巻き込みながら、活動を拡大されていて、素敵です。今後、[en.to]をどのように発展させていきたいと考えていますか。
西出さん: [en.to]を「試せる場所」としてさらに成長させたいと考えています。小さなアイデアでも、地域で実験的に試せる場があると、地域全体の活力が高まると思うんです。今後は、短期から中長期の滞在まで選択肢を広げ、訪問者がより深く地域と関わることができる環境を整えたいですね。そして、[en.to]を通じて人々が新しい挑戦を始めるきっかけとなり、塩尻市全体にポジティブな変化をもたらすことを目指してます。
成田: 最後に、西出さんが理想とする社会についてお聞かせください。
西出さん: 私が目指しているのは、[en.to]が誰かの人生のターニングポイントになるような場であり続けることです。私自身、これまで様々な場所を点々とし、多拠点生活を続ける中で、多くの出会いや経験が自分の価値観を変えてくれました。そのような経験が他の人にも生まれる場を作りたいんです。[en.to]では、人々が新しい挑戦や発見を通じて自分の人生に新たな方向性を見つけられるような環境を提供したいと考えています。たとえ自分とは直接関係のないところであっても、[en.to]を通じてつながった人々が協力し合い、新たな価値を生み出していくことで、社会全体がより豊かになっていくことを願っています。
編集後記:今回は、アドレスホッパーであり[en.to]プロジェクトの中心メンバーとして活動されている西出さんにお話を伺いました。[en.to]プロジェクトは地域再生を目指し、シェアハウスやゲストハウス、コミュニティスペースとして地域社会に根付き、DIYイベントやシェアごはん会などで人々が集い、新たなつながりを生んでいます。都内で会社員として働いていた西出さんがアドレスホッパーとなり、地域を巻き込んで地方創生に取り組む姿は、まさに漫画の主人公のように感じられます。今後もさらに滞在環境を整え、多くの人が参加しやすい空間を提供しながら、地域の成長を支えていくことを目指しているとのこと。[en.to]が描く新しい公共の形が、地域社会に好循環をもたらしていくことを期待しています。西出さん、貴重なお話をありがとうございました。