“見えにくい”を体験できるロービジョンカフェを実現したい!

2024.12.23
目次

プロジェクトの要約:学生チーム「Braillies(ブレイリーズ)」は、視覚障害者と健常者の架け橋を目指し、ロービジョンカフェの実現に取り組んでいます。視覚障害の一種である「ロービジョン」の見え方を体験できるこのカフェでは、特製キットを使用して視覚障害の日常を体感しながら、飲食や会話を楽しめます。
プロジェクトURL:「見えにくい」を体験できるロービジョンカフェを実現したい!

現役大学生が始めた挑戦――ロービジョンカフェの誕生秘話

岸野: 今回のプロジェクトで、クラウドファンディングを選ばれた理由を教えてください。

小汲さん:私たちは「ロービジョンカフェ」で、参加者に「見えにくさを体験できるメガネ」をかけていただき、飲食や店内の移動を体験してもらいたいと思っていたんです。ロービジョンカフェとは、普段の生活を「非日常」の視点で体感することで、視覚障害の多様性について理解を深めていただける場です。
ですが、ロービジョンカフェを開催したいと思った時には、必要な資金が全くない状態でした。ピッチコンテストに出場する中で、同世代の人たちが自分たちのプロジェクトを具体的に形にしているのを見て、「どうやってここまで進めたのか」と聞いてみたんです。すると、多くの人がクラウドファンディングを活用していたことが分かりました。それで、自分たちも挑戦してみようと決めたんです。

岸野: クラウドファンディング後は、どのように活動を進められたのですか。

小汲さん: みなさんからの支援金のおかげで、イベントのための備品や会場費、遠征費に充てることができました。参加者の方に「見えにくさを体験していただくメガネ」を開発したり、カフェの内装や設備の準備をすることができたので、ロービジョンカフェのイベントを無事に開催することができました。これもすべて、クラウドファンディングの支援があったおかげです。

視覚障害者の8割が「ロービジョン」――日常に潜む「見えにくさ」のリアル体験

岸野: 素敵なコンセプトのカフェですね。ロービジョンカフェを開催したいと考えたきっかけは何だったのでしょうか。

小汲さん: 視覚障害については、「全盲」というイメージを持たれる方が多いんです。ただ、実際には視覚障害のある人の8〜9割は「ロービジョン」といわれる、見えにくい状態を抱えています。この「見えにくさ」がどういうものかを知らないことで、「本当は見えているんじゃないか」と誤解されたり、「スマホを使っているのはどういうこと?」といった偏見が生まれることもあります。ロービジョンカフェは、そういった偏見をなくし、正しい理解を広めたいという思いから始めました。

岸野: 偏見が生まれる前に、体験を通じて理解を深めてもらうことが目的なんですね。具体的には、どのような体験を提供しましたか。

小汲さん: 参加者の方には、「見えにくさを体験できるメガネ」をかけていただき、飲食をしたり、店内を歩いたりといった日常生活のシミュレーションを行います。見えにくいという状態が非日常的な体験となり、そこから「普段気づけなかった視点」に出会っていただければと思っています。また、体験の後には参加者同士で気づきを共有し、それぞれが日常でどのような行動ができるのかを考える時間を設けています。

岸野: 体験型のイベントにした背景には、どのような理由があるのでしょうか?

小汲さん: 以前は講演会形式で啓発活動を行っていたのですが、その場限りの学びで終わってしまうことが多いと感じました。カフェという形にすることで、参加のハードルを下げ、日常に近い環境で体験してもらえるようにしました。また、カフェは「対等なコミュニケーションの場」としての魅力もあります。参加者同士がリラックスして関われる空間を提供することで、深い気づきや行動のきっかけに繋がると考えています。

そして、ただ理解して終わりではなく、偏見が生じる前に正しい情報を知ってもらうことで、視覚障害を「特別なもの」として見るのではなく、一緒に解決策を考える仲間として捉えてもらいたいです。そのための第一歩が、このロービジョンカフェだと思っています。

「子どもの気づきが大人を変える」――ロービジョンカフェがもたらす好循環

岸野: 実際にロービジョンカフェを開催してみて、参加者の方々の反応はいかがでしたか。

小汲さん: 多くの方が「視覚障害にはこんなに種類があるのか」と驚かれていました。なかでも、小さなお子さんたちの反応が印象的でしたね。子どもたちは、「こういう見え方があると、普段やっていることが難しくなる。でも、こうすればもっとやりやすいんじゃないか」といった提案をしてくれたり、日常生活に結びつけて体験を深く考えてくれる場面が多かったです。その柔軟な発想にはとても驚かされました。

また、子どもたちから大人たちへの影響も大きかったです。実際に、あるお子さんが親御さんに「こうすればもっと楽に見えるようになるよね」と話している姿を見て、親御さん自身も一緒に考え始める場面がありました。子どもたちの柔軟な気づきが、大人たちの固定観念を変えるきっかけになっていると感じました。世代を超えて、新しい視点を共有する瞬間を見ることができたのは、とても嬉しい経験でしたね。

イベントを通じて感じたのは、小さなきっかけでも意識や行動に変化が生まれるということです。子どもたちの気づきが、大人たちに伝わり、その連鎖がまた次の学びや行動に繋がっていく。そんな循環を作る場を提供できたことが、大きなやりがいに感じています。

「なぜ選択肢がこんなに狭いのか?」――悔しさから行動へ

岸野: ここまで積極的に行動を起こされているのには、どのような思いが原動力になっているのでしょうか。

小汲さん: 一番の原動力は、「視覚に障害がある」という理由だけで、選択肢を狭められる現状に対する悔しさです。見えていた頃と見えなくなった後、両方を経験しているからこそ、「障害があるからできないだろう」と決めつけられるたびに、どうしても許せない気持ちになります。

私は中学3年生までは一般校に通い、その後、高校の3年間は盲学校に通いました。両方の立場を経験する中で、特に盲学校では勉強や就職において選択肢が狭められていることを痛感しました。

印象的だったのは、高校時代の盲学校での経験です。盲学校では、カリキュラムが限られていて、大学進学を目指すには独学が必要な状況でした。不安を感じて近所の塾に通おうとしたのですが、「視覚障害があるので対応できない」「前例がない」と断られてしまいました。私は、小さい文字のほうが見やすいので縮小印刷をお願いすれば対応できると提案しましたが、「それでも難しい」と一方的に決めつけられました。一緒に解決策を考えてくれる人がいないことが、すごく悔しかったですね。ほかにも、視覚障害者の進路が、あん摩や鍼灸などの三療系の仕事や、パソコンを使った事務作業に限られているという現状にも疑問を感じていました。「なぜ選択肢がこんなに狭いのか?」という悔しさが、今の活動の出発点です。

視覚障害がある人が特定の道しか進めないような状況自体が問題であると思います。ハンディキャップの有無に関わらず、誰もが自分の意思で選んだ道に進める社会にしたいという思いを常に抱いています。ただ、自分が感じた課題を放置すれば、次の世代も同じ壁にぶつかってしまいます。それを少しでも変えるために行動を続けていきたいと考えています。

立場に関係なく意思が尊重される社会へ

岸野: 今後、どのように、活動を展開していきたいとお考えですか。

小汲さん: 今はロービジョンカフェを中心に活動していますが、もっと多くの地域で開催し、視覚障害についての理解を広めたいです。将来的には全国ツアーのような形で、各地でイベントを行うことを目指しています。その際に、 理解を広げるだけでなく、「行動に繋がるきっかけ」を提供したいです。体験を通じて、「自分に何ができるか」を考え、日常生活に落とし込んでいける場を作りたいですね。

私は、立場や持っているものに関係なく、本人の意思が尊重される社会を目指していきたいです。ここで言う「尊重」というのは、すべての願いが叶うという意味ではありません。自分が意思を持って挑戦できる環境や、自分で納得した上で選択肢を選べる社会のことです。そんな社会をめざしていきたいです。


編集後記:今回は、学生チーム「Braillies(ブレイリーズ)」の代表を務める小汲さんにお話を伺いました。「Braillies(ブレイリーズ)」は、「見える見えないに関わらず、自分の意志で自由に選択し、自らの足で一歩を踏み出せる社会の創造」を理念に掲げて活動している学生チームです。小汲さんとの対話を通じて、逆境にも屈せず、希望に向かって何度でも挑戦するその姿勢が強く印象に残りました。視界が変わるという経験や、障害に対する偏見といった数々の困難に立ち向かう姿は、私自身にも多くの学びを与えてくれました。この記事をきっかけに、「ロービジョン」という言葉が広まり、ロービジョンを持つ方々への理解が少しでも深まることを願っています。また、小汲さんが目指す、「誰もが、自分の意思を尊重され、自由に選択できる環境」の実現を心から応援しています。貴重なお話をありがとうございました。


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