障がいのある人々の、遊びの可能性を広げるイベントを開催したい!

2024.12.23
目次

プロジェクトの要約:テクノツール株式会社の広報担当であり、自身も重度の身体障害を持つ干場慎也さんは、障害者の「できない」を「できる」に変えるイベントを企画しました。このイベントでは、手で操作可能なレーシングシミュレーター視線入力や、寝たきりの方でも視線でドローンを操縦できる技術など、最新のアシスティブテクノロジーを体験できます。
プロジェクトURL:障害のある人々の、遊びの可能性を広げるイベントを開催したい!

体験で広がる選択肢:イベント「本当の可能性に、アクセスする。」とは??

岸野: クラウドファンディングから1年以上経過していますが、どのように、支援金を活用されましたか。

干場さん: クラウドファンディングで集まった支援金は、「本当の可能性に、アクセスする。」というイベントの開催に必要な準備と運営に活用しました。このイベントでは、視線入力で操作できるドローンや、音楽デバイス、ゲームコントローラーなど、アシスティブテクノロジーを実際に体験してもらう場を提供しました。こうしたデモ展示を行うための機材やスペースの準備に資金を充てたほか、出展者の調整や設備の整備にも活用しました。

また、当社テクノツール株式会社(※1)だけでなく、株式会社シアン(※2)、株式会社コボリン(※3)とも共同し、実施しました。その結果、幅広い種類の技術を展示でき、参加者により多くの選択肢を知ってもらう機会を作ることができました。

岸野:様々な企業とコラボがされて、いろいろな技術を紹介されたんですね。今回のイベント実現において、工夫されたことはありますか。

干場さん: イベントを成功させるため、広報活動に力を入れました。具体的には、SNSでの情報発信や紹介動画を通じて、多くの方々にアプローチしました。また、クラウドファンディングのプラットフォームを活用し、イベントの趣旨や目的をわかりやすく伝えるページを制作しました。このページは資金調達だけでなく、イベントそのものの広報や集客の役割も果たしました。これらの取り組みを通じて、イベントへの期待感を高めることができ、多くの参加者を募ることができたと感じています

岸野:イベント実施にあたり、なぜクラウドファンディングを実施することになったのですか。

干場さん:活動を広めることが目的の1つでした。私たちが取り組むアシスティブテクノロジーの存在を、多くの方に知ってもらいたいという思いが背景にありました。この分野はまだ認知度が低く、「そんな技術があるなんて知らなかった」という声も多いです。単にデバイスを販売するだけでなく、実際に体験してもらうことで「これなら自分にも使える」と感じていただける場を作りたいと思いました。

また、クラウドファンディングを通じて資金を集めるだけでなく、支援者や同じ志を持つ方々と直接つながる機会を得ることも目的の一つでした。クラウドファンディングは、支援してくださった方々が「自分もこのプロジェクトの一部だ」と感じられる仕組みでもあると思います。その共感や応援が、新たな活動の後押しになると考えました。

イベントの反響は?:「次回も参加したい」の声続々

岸野:実際に、イベント開催して、どのような反響がありましたか

干場さん:今回、テクノツールは元々梶山紘平さん(※4)と株式会社シアンさんと共同で取り組んでいた「ドローンアクセシビリティプロジェクト」を展示しました。このプロジェクトは、視線入力でドローンを操作する技術を活用し、遠隔でモビリティを動かす可能性を探る取り組みです。ドローンだけでなく、車や小型カートなどへの応用も視野に入れた挑戦となっています。

イベントでは、寝たきりの当事者の方がパイロットを務めました。普段ベッド上で生活されている方が実際にドローンを操作し、「これなら自分も楽勝でできる!」と楽しんでくださった場面が非常に印象的でした。この瞬間、「このイベントは成功した」と強く感じました。やはり、参加者が自分事として体験することの大切さを改めて実感しました。

また、イベントには顔見知りの方々も多く来場してくださいました。さらに、ブースで初めて出会った人々同士が交流し、「次はこういうことを一緒にやりませんか?」と新たな企画が生まれる場面もあり、つながりの広がりを感じることができました

「勇気が生んだ共感の連鎖」ーークラファン成功の裏側

岸野:イベントを開催するために実施した、クラウドファンディングを通じて、どのような発見や学びがありましたか。

干場さん: 一番大きかったのは、人に何かをお願いすること、そして自分の思いを伝えることの大切さを実感したことです。始める前は「自分にそんなことができるのか?」という不安や、「これ以上誰かに何かを頼るのは申し訳ない」という気持ちが強くありました。ただ、それを乗り越えないとプロジェクトは成功しないと感じて挑戦しました。クラウドファンディングのページを作る際に、キューレーターの方から「もっと干場さん自身の思いを書いてみては?」とアドバイスをいただき、自分の言葉で素直に書いてみたところ、多くの方が「応援したい」と声を寄せてくれました。その反響には本当に驚きました。

また、自分の思いに共感してくれる人がいることが、これほど力になるのかと実感しました。支援者は昔からの知り合いだけでなく、SNSや口コミでプロジェクトを知った全く面識のない方も多く、一つ一つの支援が「自分の思いは人を動かせる」という自信につながりました。クラウドファンディングは、単なる資金集めの手段ではなく、自分の思いを整理し発信するきっかけであり、人と人をつなぐ力を持っていると感じています。

原体験から生まれた情熱――技術で切り開く新しい選択肢

岸野: 今回のイベントに取り組まれる際、どのようなことが原動力となっていましたか。

干場さん: 私自身、脊髄性筋萎縮症(SMA)という病気を持つ一当事者として、日々の生活や社会での経験を通じて、多くの課題や不便を感じてきました。その中で、「選択肢がない」という現実を何度も目の当たりにしました。例えば、就職活動では「身体的なサポートが必要な人を雇用するのは難しい」と断られることが多く、自分がやりたいことに挑戦するチャンスすら得られないことがありました。このような体験を通じて、「自分が持っている可能性を追求するための選択肢がもっと広がる社会を作りたい」という思いが強くなりました。

自分自身が選択肢の少なさに苦しんできたからこそ、同じような課題に直面している人たちに「新しい可能性」を提示したいという気持ちが強いです。そのためにアシスティブテクノロジーのような技術を活用し、障害があっても「自分にもできる」と思える環境を提供したいですね。私たちの技術やイベントが、一人でも多くの方の背中を押すきっかけになればと思っています。

理想の社会:選択肢がたくさんある世界へ

岸野:素敵な考えをお持ちですね。では、テクノツールとして、どのような今後のビジョンを考えているでしょうか。

干場さん:テクノツールでは「本当の可能性にアクセスする」というテーマを引き続き推進し、デバイスを提供するだけでなく、その先の価値を広げていきたいと考えています。個々のニーズや好みに合わせたサポートを行い、アシスティブテクノロジーを継続的に提供することが目標です。また、すべての人が技術を活用して新たな選択肢を得られるよう、企業と協力しながら障害の有無に関わらずインクルーシブな環境を作る取り組みを続けていきます。やりたいことに挑戦できる環境を整えることが、私たちの目指す未来であり、テクノツールがその橋渡し役になりたいと考えています。

岸野:最後に、干場さん自身の理想の社会についても教えてください。

干場さん:私は「選択肢がたくさんある世界をつくりたい」という思いを持っています。やりたいことを環境や制度の制約で諦めることのない社会を目指したいです。後に続く当事者の方々が「あの人と同じようにできる」と思えるような社会を作りたいですね。どの分野でも、自分の「やりたい」に挑戦できる環境が必要です。

また、障害を持っていることに負い目を感じなくて良い社会を目指しています。人それぞれの得意な部分や足りない部分の違いを自然に受け入れ、「その視点は君ならではだよね」と言い合える関係性が広がる未来を理想としています。さまざまな体験を通じて一人ひとりが豊かさを追求し、輝ける社会を作っていきたいです。

※1:重度肢体不自由者向けに、コンピューター操作や生活動作を支援する「アシスティブテクノロジー」の製品を提供・サポートする会社

※2:VRやドローンを活用し、外出困難者向けにバーチャルツアーや交流会を提供する会社

※3:『一緒につくる、あなたの「できる」を増やす超電動車いす』をコンセプトに、既製品の性能を超える「超電動車いす」を通じて、肢体不自由者の「できる」を実現・拡大し、販売する会社

※4:「ドローンアクセシビリティプロジェクト」発起人。デュシェンヌ型筋ジストロフィー当事者。東京都で介護制度等の社会資源を活用し、一人暮らしを10年以上継続中。寝たきりの状態でありながら、高難易度のゲームを視線入力や指に設置したスイッチを駆使してクリアするスキルを持つ。それらのスキルを用いて就労することを目指して本プロジェクトに参加。


編集後記:「本当の可能性に、アクセスする。」というイベントで、実行委員長を務められた干場慎也さんにインタビューを行いました。読者の皆さんは、今回の記事を通じて新たな発見がありましたでしょうか。私自身は、これまで気づけていなかった視点を学ぶ機会となりました。干場さんが語られた「本当の可能性に、アクセスする。」という言葉には、すべての人の潜在的ニーズを汲み取り、社会全体が可能性を感じられる世の中を目指す強い思いが感じられます。それは、障害の有無にかかわらず、多くの人々に響くビジョンであると思います。干場さんの挑戦は、これからも続いていきます。貴重なお話をありがとうございました。


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