プロジェクトの要約:選択理論を基盤とした無料のオンライン出前授業を全国の学校等で実施し、子どもたちの精神的幸福度を高めることを目的としています。オンライン出前授業では、いじめや不登校の予防に焦点を当て、子どもたちが自らの行動を選択し、前向きな人間関係を築く力を育成します。
プロジェクトURL:出前授業と本で、いじめ・不登校を防ぎ、子どもの「精神的幸福度」を高めたい!
目標の1.5倍!オンライン授業が214校に広がった理由とは?
岸野:クラウドファンディングから1年が経ち、どのように活動を広げられましたか。
井上さん:クラウドファンディング終了後、無料のオンライン出前授業を本格的にスタートしました。当初は110校への導入を目標としていましたが、結果的には214校まで広げることができました。その対象は学校だけでなく、スポーツ団体や保護者会など、多岐にわたっています。クラウドファンディングで集まった資金を活用し、交通費や教材制作費を賄うことで、より多くの現場に授業を届けることが可能になりました。
さらに、絵本やワークブックを寄贈する活動も行いました。これにより、授業後も子どもたちが学びを継続できる仕組みを構築できました。これらの教材は、子どもたちとの日々のコミュニケーションやその変化に基づいて制作しています。例えば、「今日はどんな楽しいことがあった?」といった前向きな言葉を掛けることで、子どもたちの表情がぱっと明るくなる瞬間を多く目にしてきました。このような経験を反映し、絵本は子どもたちが親しみやすいひらがなを主体とした構成にしつつ、親子や先生との対話を自然に促す内容にしています。
また、絵本には大人向けの解説部分も設けており、具体的な効果や活用方法を分かりやすく説明しています。この絵本を活用した「絵本ファシリテーター養成講座」も実施しており、地域ごとに自主的な学びの場が広がるきっかけとなっています。
岸野:絵本が単なる読み物としてだけでなく、親子の対話を深め、実践的に活用されているのは素晴らしい取り組みですね。
井上さん:そうですね。絵本やワークブックは、授業後の学びをつなぎ、親子の対話をより深める役割を果たしています。その結果、親子関係が良好になり、子どもたちの行動にもポジティブな変化が生まれています。この点が活動の大きな成果だと感じています。
人付き合いの秘訣!:プラスの言葉って?
岸野:実際にオンライン授業を実践されてみて、子どもたちや親御さんからはどのような反響がありましたか?
井上さん:おかげさまで、非常に好評をいただいています。「子どもとの接し方が変わった」「職場の人間関係が良くなった」など、親御さんや先生方から多くの感想をいただきました。オンライン授業は全国どこからでも参加できるため、地方にお住まいの方や忙しい方にも幅広く活用していただいています。先生方からは「子ども向けの授業が大人にも分かりやすい」との声も多いですね。また、親子参加型の授業では、保護者も一緒に学ぶことで、子どもたちの学びを共有できる点が高く評価されています。子どもたちからも「人との付き合い方が分かって安心した」という声が寄せられています。
授業では、コミュニケーションでの「プラスの言葉」の重要性を伝えています。例えば、相手を認めたり励ましたりすることでお互いに良い気分になれますが、否定や批判を繰り返すと関係が悪化します。このように、どうすれば良好な関係を築けるか、自分の気持ちをどうプラスの言葉で伝えるかを実践的に教えています。これにより、子どもたちの主体性とコミュニケーション能力が育っています。この2つの力があれば、将来どんな困難にも対応できると考えています。
岸野:授業を通じて効果が表れているのですね。ところで、絵本やワークショップの評判はいかがでしょうか。
井上さん:こちらも「分かりやすくて使いやすい」と好評をいただいています。個別に購入される方も多く、人権擁護委員や家庭教育アドバイザー、園長先生などから「ぜひ個人的に手元に置きたい」という声をいただいています。こうした反応をいただけるのは本当に嬉しいですね。
ただ、このような絵本や教材は、存在することを知らなければ、手に取ってもらう機会は生まれません。その点、クラウドファンディングを通じて多くの方に知ってもらえたのは、とてもありがたいことだと感じています。
全国に広がる選択理論の輪!62名の講師が活躍中
岸野:現在214校でオンライン講義を行っているとのことですが、活動を広げていく上で大切にしていることはありますか。
井上さん:活動を広めるために、実践の場を増やしています。私自身が伝えることも重要ですが、最近は、講師を養成することにも力をいれています。これまでに62名の正式な講師を育て、全国各地で授業を展開してもらっています。養成講座では、Zoomを活用し、10回の講座を通じて理論を学ぶだけでなく、授業を組み立てるスキルも身につけてもらいます。このように、私自身が直接伝えるだけでなく、選択理論心理学を広める仲間を増やすことで、私一人では届けられない地域や人々にも活動を広げることができています。
岸野:講師の方々にはどのような内容で育成されているのでしょうか?
井上さん:講師養成では、まず、選択理論心理学の基本的な考え方をしっかり学んでいただきます。その上で、授業や日常生活でどのように実践できるかを具体的にお伝えしています。Zoomを活用した10回の講座では、理論の学習に加え、授業を構成する練習も取り入れており、受講生が実際に授業を行えるスキルを磨ける内容です。
岸野:改めて選択理論心理学について教えていただけますか?
井上さん:選択理論心理学は、ウィリアム・グラッサー博士が提唱した心理学で、「人は自分の行動を自ら選択している」という考えに基づいています。この理論では、「傾聴する」「受容する」「支援する」「励ます」「尊敬する」「信頼する」「違いを交渉する」という7つのプラスの関わり方を実践することが重視されています。これを通じて、いじめや不登校といった問題に直面した子どもたちが主体的に解決策を見つけられるようになります。
選択理論の大きな強みは、実践すれば成果が得られる点です。理論が脳の働きに基づいているため矛盾がなく、再現性が高いことも特徴です。特に、「愛と所属」の欲求を満たすことが他の欲求を満たす基盤になるという考え方は、多くの人に共感を持って受け入れられています。この重要性を伝えながら、自分の言葉で理論を語れるようになる講座を行っています。
岸野:実際に養成講座を受けた講師の方々がオンラインや全国で活躍されているとのことですが、どのように活動を広げられているのですか。
井上さん:講師の方々は、それぞれの地域で学校や教育団体、地域コミュニティを対象に授業やワークショップを行っています。また、私自身が直接依頼を受けた学校や団体に講師を派遣することもあります。一度授業を行うと、「次もお願いしたい」とリクエストをいただくことが多く、その積み重ねで徐々に活動の幅が広がっています。
こうして講師が各地で選択理論を伝えることで、私一人では届かない地域や人々にも、その価値を届けることができています。
「どうなりたい?」その問いが変えた教育の在り方
岸野:井上さんが選択理論を広める活動を始めたきっかけは何だったのでしょうか?
井上さん:私が活動を始めたのは、いじめや不登校に悩む子どもたちを見て、「この子たちの力になりたい」と心から思ったからです。
以前、公立小中学校で養護教諭として働いていた際のことです。ある日、保健室に喧嘩をしてしまった子どもが来たので、「どうなりたい?」と尋ねてみたんです。すると、その子は「本当は仲良くしたい」と、素直な気持ちを打ち明けてくれました。
そこで、「じゃあ、どうすれば仲直りできると思う?」と一緒に考えていくと、「自分から謝るしかないかも」と、具体的な行動を自ら導き出してくれたんです。これはまさに、選択理論を活用した一例です。このようにして子どもが自分で行動を選び、前に進む姿を目の当たりにしたとき、「人は自分の行動を選び取る力を持っている」と確信しました。同時に、選択理論がどれだけ効果的で実践的なものかを強く実感しましたね。
岸野:そのような体験が、活動を広めたいと思う原動力になったのですね。他にも特に印象に残っているエピソードがあれば教えてください。
井上さん:忘れられないエピソードがあります。ある6年生の子が私に「先生、どうして怒らないの?」と尋ねてきたんです。そのとき、私はこう答えました。「話を聞いて、一緒に考えたほうが、きっといい結果につながるからだよ」と。その子はしばらく考えた後に、「僕も怒らない大人になりたい」と言ってくれたんです。
その瞬間、「この理論をもっと多くの人に伝えたい」と心の底から思いました。温かく寄り添うことで、子どもたちが自分の力で前向きな行動を選べるようになる社会を作りたい。その思いが、私の活動を続ける大きなモチベーションになっています。
選択理論が築く理想の社会とは?
岸野:井上さんが、これから目指す理想の社会やビジョンについてお聞かせください。
井上さん:選択理論を多くの人に伝えていきたいです。私自身、この理論を知ることで、昔と比べて穏やかな気持ちで過ごせることが増えました。例えば、目の前で子ども同士が喧嘩をしていたとします。その際、「人は変えられないよね」と一人の子が言い、もう一人が「そうだよね、じゃあどうする?」と考える。そして「仲良くしよう」「少し距離を取ってみよう」など、自分たちで幸せに向かう選択をしていく。そんな会話が自然に交わされる社会を目指しています。
この理論を通じて、これまでに約7000人が学び、その前の10年間では約4万人の方々に伝えることができました。現在、62名の正式な講師がいますが、さらに多くの方に講師として活動していただきたいです。選択理論が広がれば、日本のように教育レベルが高く、インフラが整っている社会では、いじめや不登校の予防、さらにはメンタルヘルスの向上にもつながると確信しています。
編集後記:今回は、選択理論を通じて子どもの精神的幸福度の向上に取り組まれている井上さんにお話を伺いました。インタビューを通じて、井上さんの温かく魅力的なお人柄が伝わり、多くの人々を巻き込みながら、井上さんを中心に、幸せが広がりつづけている理由がよく分かりました。私自身、小中学生時代に精神的な未熟さから他人と衝突したり、自信を失ったりする経験がありました。当時、もし選択理論の考え方を知っていたなら、もっと前向きに成長できていたのではないかと感じます。選択理論は、まさに現代社会にふさわしい理論であり、これからさらに広まることで、多くの人々のメンタルヘルスが向上することを願っています。井上さん、このたびは貴重なお話をありがとうございました。